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膨らまない話。

Tyurico's blog

早瀬利之 『タイガー・モリと呼ばれた男』を読んだ

戦前の剣道界屈指の実力者であり、渡米してはフェンシングにおいても全米2位にまで昇ったタイガー・モリこと森寅雄の伝記。
わかる人にはわかる言い方で手短に言えば、村上もとかさんがマンガを描いたらピッタリじゃないかというその人物と生涯。

タイガー・モリと呼ばれた剣道の達人というのでどんな強面かと思って写真を見ると、柔和そうでお洒落な好男子。ダブルのスーツが常で大の自動車好き、ダンスも上手で若い頃はしばしば役者と間違われた男振りだったという。

森寅雄は講談社創業者である野間清治の甥にあたる。
野間家にはすでに長男のがあったが、恒13歳、寅雄が8歳のときに寅雄を養子にとった。境遇からして屈託がまるで無かったわけでもないようだが寅雄はまず何不自由無く育てられたと言っていいだろう。

ところでこの本を読んで野間清治という人にもまた興味を覚えた。
野間清治は実業家であったが、また青少年の薫育にも力を注いだ人のようだ。当時の講談社には 「少年部社員」 という制度があって、これの実態がいま一つ伝わって来ないが、優秀だが経済的事情から進学できなかった少年たちを寄宿させて講談社の仕事を手伝わせ併せて教育も施すような制度のようだ。(もう少しこの少年部の具体的な話を知りたかったのだが、本ではそれほど詳しく触れられてないし、検索しても殆ど得るところがない。)
剣道の稽古もその教育の一つで、自身も剣道家であった野間清治は邸内に野間道場という立派な剣道道場を建てて高名な師範を招き、少年たちを教えた。恒も寅雄もそこで稽古を重ねてやがて二人ともトップクラスの実力者になっていく。


で、またマンガになりそうなのが、天覧試合の予選で寅雄は恒に手もなく敗れてしまうのだが、試合前日に寅雄は野間清治に呼ばれて 「お前はまだ若いのだから」 と言われたらしいという話。チャンスはまたある、一つ今回は勝ちを譲ってやってくれんか、と解して寅雄は力を出せなかったのではないか、というのだ。
まあこの辺りの真相はどうなんだろう、相手の野間恒もトップクラスの剣士、あからさまに手を抜いたらすぐに気づくだろうし、そんな勝ち方に喜ぶような人物とも読めなかった。
また仮に野間清治にそういう意図があったのだとしても、舞台は優勝が視野に入った天覧試合、実の親の偽らざる気持ちとしてそれを無下に批判も出来ないようにも思う。

ただ何にしても森寅雄はその後、野間清治が用意していた講談社系列での経営者になるという道筋からは自ら離れていく。


実は既に一度マンガ化されているんだけど、森寅雄と野間清治を二軸にして村上さんが長編マンガを描いたらいのに、と改めて思いました。
 
 

タイガー・モリと呼ばれた男 (ミスターマガジンKC)

タイガー・モリと呼ばれた男 (ミスターマガジンKC)