膨らまない話。

Tyurico's blog

「どんどん解ってしまう人」と「簡単にそうはいかない人」の違い 『橋本治と内田樹』を読んだ

 
読んでみて内田さんは橋本さんの本を本当にちゃんと読んでるんだろうかと思ってしまった。

橋本さんはもうずいぶん昔から物書きの人で、内田さんはまあこの頃の人なんだけど、実は二つしか歳が違わないらしい。
それでこの本は昔からの橋本ファンを自認する内田さんと橋本さんの対談という形で、私も内田さんが橋本さんをずいぶんと賞賛しているということは知っていたけれど、さてこの対談を読んでみたら、正直言って内田さんは橋本さんのことを実際どれくらい好きなんだろうか、もっとはっきり言ってしまえば実は内田さんは橋本さんの本をそれほど読んでないんじゃないのかと疑ってしまう箇所が目についてしまった。
 
例えばこれは204ページからの話。
現代国語の記述問題が苦手だったと話す橋本さんに対して、内田さんは「あれは著者じゃなくて出題者の頭の方に同調して考えるんですよ」と実に秀才らしい解答のコツを語る。
橋本さんはそれに「そんなことできないですよ。だって俺、好きじゃない人に頭を合わせられないから。(笑い)」と返す。
これに対して内田さんは最初、「いろいろともう……面倒の多い人ですね!(笑い)」とまずは嬉しいような困ったような反応をしてみせて、しかしその次には「好きじゃない人の思考回路と共感するのは苦手ですか? できない? やる気ないですか?」なんてことを言い出すのだけれど、でも橋本さんの本をある程度読んでいる人間だったら橋本さんのこういう言葉はそもそも全く意外なものではないはずなのだが、と不審に思う。
それに「やる気ないですか?」なんて言い方、一体どういうつもりなのか。橋本さんの本をずっと読んでるとか自負してるのに、橋本さんのような人に「やる気」がどうだのって問いかけをするって本当に意味がわからない。橋本さんみたいな人が一体なにで動くと思ってるんだろう。
 
またこれは190ページから。
抽象概念をなんとなく理解するようなことができないという橋本さんが、「ドイツ人の何とかが言った話というふうになると、その人が18世紀だとすると、「18世紀ぐらいのドイツってこういうような状況で、キリスト教圏でプロテスタントだったらこうで」とかいうふうにやって、そういう歴史的な背景から、「ああ、じゃその言葉はこういうことから出るのかな」 みたいな、厄介な手順踏まないと、俺わからないんです。ほんとうに。」というように説明をする。
すると内田さんはそれに対して「うーん。」と不思議そうに唸る。
でもこれもいかにも橋本さんらしいとしか思えない話で、抽象概念の理解に限らず橋本さんという人は「厄介な手順踏まないとわからない」という面倒なことを一貫してずっとやってきた人なのではないかと思うのだけれど。(でも好きじゃない人に頭を合わせるような面倒はできない。)

内田さんは読者向けに対談相手の役割としてあえて大げさに驚いて見せているんだ、という見方もあるかもしれないが、読み返してみてもやはり内田さんは本当にびっくりして最後まで納得が行ってないように思える。
こういう食い違いを見ていると内田さんは橋本さんがわざと知識人らしからぬふりをしていると思っていて、「ほんとはすごい知識人なのにこんなふざけた本なんかも書けちゃう橋本さんってすごい!」って持ち上げているんじゃないのかとすら思えてきた。内田さんは橋本さんの無類の独特さを戦略やポーズだとでも思っているのかも知れない。
 
あと最後に気になったのが、対談の終わりに内田さんがサインをお願いするために『デビッド100コラム』という橋本さんのだいぶ昔の本を取り出してきたところ。
そこで初めて内田さんはこの本が『100コラム』なんてタイトルなのに雑誌に連載してたコラムをまとめたものではなく、わざわざ100個分のコラムっぽいものを一気にまとめて書いて作った本だったことを知って、そのことに内田さんはえらく驚いたりはしゃいだりして興奮してるんだけど、こういう「コラム100個を一気に書き下ろし」なんていう橋本さんならではの馬鹿馬鹿しさを今までずっと理解していなかったというのは、もう昔からファンなんですと熱心にアピールしているのにこれはどういうもんだろう。
目に付きにくい場所だとはいえ「本書は、著者初の書下し100コラムである。」と説明がついているし、「コラム」によって文字数が多かったりまるで少なかったり全くバラバラで、中にはたった一行しか書いてない項目だってあるんだし。
やはり内田さんは橋本さんの本を実はそんなに大して読んでないんじゃないのか。持ってる冊数、読んだ冊数は多いのかもしれないけど。
 
 
たぶん内田さんは、自分は橋本さんと同類だと思っている。あるいは同類だと思われたい、同類と思われると嬉しいんだろう。
でもそれは内田さんの勘違いじゃないの、というのが率直な感想。


「橋本治と内田樹」 - jmiyazaの日記(日々平安録2)

 
 
 

 
tyurico.hatenablog.com