膨らまない話。

Tyurico's blog

「菊千代」と名乗る不憫さ

映画『七人の侍』の中で三船敏郎演じる「菊千代」だけは本当の侍ではなく、俺は侍だと言い張っているだけの男。

おそらくは戦乱で孤児となって己の膂力を頼りに辛くも生き延びてきた百姓の倅で、どこかで拾ったかでもした武家の家系図を開いてそう言い張る。

そこに記されていた「菊千代」というのが彼の呼び名になったわけだが、「菊千代」とか「竹千代」とかいうような名前は武家男児幼名であるわけで、ヒゲ面のむくつけき男にはまるで不似合な名前でしかない。

家系図と歳の勘定が合わないではないか、というようなやりとりは観客にわかりやすくするためで、本当に武家に生まれた者からすればもうその名前だけで「あれが菊千代か」とそれこそ噴飯ものに違いない。「菊千代」などと名乗る時点で彼が武士でないことは既に明白であるわけだ。
 
そういう仔細など全くわからないまま「俺が菊千代だ」と言い張っているわけで、そこに彼の不憫さと滑稽さとまたいじらしさが際立つ。

しかしこういうのはもう日本人であっても伝わりにくいような話であって、これを黒澤ファンの外人の知り合いに話してみたらどうだろうと思ったのだが何分そういう知り合いがいないのは残念な次第だ。