膨らまない話。

Tyurico's blog

命の危険を冒してまで移民が大挙して遠い異国に押し寄せて来るということは、

 
彼らが「自分の国では満足に暮していける望みが到底ない、行けるんだったら手を尽くしてなんとしてでも他所の豊かで安全な国に行った方がいい」と考えているということだろう。

それで、「彼らはそこまで追い込まれているのだ」と考えることもできる。
だからそれに対して、「窮状にある彼らを当然のこと受け入れるべきだ」という考えが出てくるのもまあわかる。


しかしそれでもその殆どの人たちは、「でもそりゃ自分の生まれ育った国で満足に暮らしていけるんだったらもちろんそれが何よりだよ」と言うんじゃないかと思う。
だとしたら、緊急的援助はともかく、最終的には彼らが生れ育った本国で満足に暮らしていけるような形を目指して長期的な姿勢で支援していくというのが一番なのではないか。
 
人道的な人々が「彼らは今まさに窮状にあえいでいるのだ」、「危急の受け入れをしろ」といって有無を言わさぬ姿勢で迫ってくる。
しかしそもそも、「なぜ人が自分の生れ育った国で満足に暮らしていくことができないのか」という問いに発する根本的な対応もあるべきではないのか。
 
考えてみれば、大勢の人たちが自分の生まれ育った国で満足に暮らしていけずに逃れ出ていくというのは本来全く有り得べからざる異常な事態なのであって、これこそが一番の問題だと思うのだが。
 

しかし「豊かな国に行きたい」とか選り好みしてる時点で「命からがら逃げてきた」の窮状とは違うんだよな。
 

「なぜ日本はスティーブ・ジョブズのような人間が出てこないのか」という問いをよく見かけるのだが、

これは「なぜアメリカジョブズのような人間が出てくるのか」と問い直すべきだろう。

日本だけの話でなく、アメリカ以外のどの国からもジョブズのような人間は出てないのだ。
問いがまず機能していない。
 

ソウルシンガー、ジェイムズ・カーのCDレビューみたいなもの。

いったい誰のためになるのかというやたらとニッチなCDレビューみたいなものを再度。
一からの説明とか無しで、ジェイムズ・カーをある程度知っている人を対象にした記事になります。以後も書き足し書き直しあり。
CD発売年はイギリスでの発売年の方を表記しています。
記事に誤記誤解などありましたらご指摘ください。訂正いたします。



YOU GOT MY MIND MESSED UP 2002年 KENT
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YOU GOT MY MIND MESSED UP
1966年にゴールドワックス・レコードから出されたファーストアルバムにボーナストラック12曲を加えたCD。


1. Pouring Water On A Drowning Man
2. Love Attack   クイントン・クランチの作詞作曲。
3. Coming back to me baby   クイントン・クランチ作詞、ルドルフ・ラッセル作曲。
4. I Don't want to be hurt anymore
5. That's what I want to Know   ジェイムズ・カー作詞、ルーズベルト・ジャミソン作曲。
6. These Ain't Raindrops   クイントン・クランチ作詞作曲。
7. The Dark End Of The Street
8. I'm Going For Myself
9. Lovable Girl
10. Forgetting You
11. She's Better Than You
12. You've Got My Mind Messed Up
  13.からボーナストラック。単なるオマケかと思っていたらこのボーナストラックが予想を大きく超える良いものだった。
13. These Arms Of Mine   オーティス・レディングの代表曲のカバー。
14. You Don't Want Me (second version)   ルーズベルト・ジャミソン作詞作曲。
15. There Goes My Used To Be   ルーズベルト・ジャミソン作詞作曲。
16. A Lucky Loser
17. Dixie Belle
18. Search Your Heart
19. Sock It To Me-Baby!
20. My Adorable One
21. Love Is A Beautiful Thing
22. Life Turned Her That Way (Alt Vocal) (Previously Unissued version)
23. A Losing Game   ジェイムズ・カーが作詞した希少な曲。シングル盤とは別テイク。
24. What Can I Call My Own
 

解説によく目を通してみると、クイントン・クランチとルーズベルト・ジャミソンがかなり曲を作っていることがわかる。クイントン・クランチはゴールドワックス・レコードの創立者でありそしてオーナー。白人男性。彼自身ミュージシャンでもあり単なるレーベルのオーナーとは違っている。ルーズベルト・ジャミソンは黒人男性でジェイムズ・カーをクイントン・クランチに紹介して音楽の業界に導いた人。そして二人とも、世話が焼けるジェイムズ・カーをこの後長年にわたってフォローし続けた人たちである。



A MAN NEEDS A WOMAN 2003年 KENT
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A MAN NEEDS A WOMAN
ゴールドワックス・レコードから出されたセカンドアルバムにボーナストラック13曲を加えたCD。


1. A Man Needs A Woman
2. Stronger Than Love
3. More Love
4. You Didn't Know It But You Had Me
5. A Woman Is A Man's Best Friend   クイントン・クランチ作詞、ルドルフ・ラッセル作曲。
6. I'm A Fool For You -with BETTY HARRIS
7. Life Turned Her That Way
8. Gonna Send You Back To Georgia
9. The Dark End Of The Street
10. I Sowed Love And Reaped A Headache
11. You've Got My Mind Messed Up
  12.からボーナストラック。これも良い曲が多い。
12. A Losing Game
13. A Message To Young Lovers   クイントン・クランチ作詞、ルドルフ・ラッセル作曲。
14. Let It Happen
15. You Gotta Have Soul
16. You Hurt Me So Good
17. I Can't Turn You loose   オーティス・レディングの曲のカバー
18. Let's Face Facts
19. Who's Been Warming My Oven
20. Please Your Woman
21. Your Love Made A U-Turn
22. The Liftime Of A Man
23. Tell Me My Lying Eyes Are Wrong
24. Ring Of Fire  
  カントリーのジョニー・キャッシュの曲のカバー。原曲とは大きく違った重厚なアレンジを歌い上げてラストの曲にふさわしい。
 

Ring Of Fire

 

これを書いていて初めて気がついたことだが、作曲者のルドルフ・ラッセルというのはおそらくゴールドワックス・レコードの共同創立者でありもう一人のオーナーであるルドルフ・ラッセルその人なのだろう。彼に関する記述は全く少ないもので、それらは大方、ルドルフ・ラッセルが資金を出してクイントン・クランチがレーベルを立ち上げたという式の説明であったため、ルドルフ・ラッセルは専ら出資と経営を担当したビジネスマンで音楽の方には関わっておらず特に注目すべきこともないだろうと判断していたが、こうなるとそれは見直す必要があるかもしれない。




COMPLETE GOLDWAX SINGLES 2001年 KENT
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COMPLETE GOLDWAX SINGLES
ゴールドワックス・レコード時代に出されたシングル全14枚、A面B面の28曲全てを収録したアルバム。
上記の二枚のアルバムに収録されていない曲は太字で表記してあります。


1.The Dark End Of The Street
2.These Ain't Raindrops
3.A Man Needs A Woman
4.Life Turned Her That Way
5.Freedom Train
6.Pouring Water On A Drowning Man
7.Everybody Needs Somebody
8.That's The Way Love Turned Out For Me
9.To Love Somebody  1969年、GOLDWAXで最後にレコーディングした曲。ビージーズの67年の曲をカバーしたもの。
10.You've Got My Mind Messed Up
11.I'm A Fool For You
12.A Losing Game
13.Stronger Than Love
14.Lovable Girl
15.Forgetting You
16.Love Attack
17.She's Better Than You
18.Coming Back To Me Baby
19.That's What I Want To Know
20.Talk, Talk
21.I Can't Make It
22.Only Fools Run Away
23.You Don't Want Me
24.Lover's Competition   クイントン・クランチ作詞、ルドルフ・ラッセル作曲。
25.Row, Row Your Boat
26.Gonna Send You Back To Georgia
27.Let It Happen
28.A Message To Young Lovers




MY SOUL IS SATISFIED 2004年 KENT
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MY SOUL IS
KENTが最後に出したジェイムズ・カーのアルバム。サブタイトルは The Rest Of James Carr。つまり彼の「拾遺曲集」と言えるCD。初期1960年代から最晩年の2000年の録音までにわたっていて、また71年にアトランティック・レコードからリリースされた Hold On をはじめとしてこれまで聴くことが難しかった曲も多く収録されている。
 
かつてジェイムズ・カーのことを調べようと思ってブログなどをいろいろと読んでいると、90年代に復帰したジェイムズ・カーは衰えていてもう全盛期の輝きはなかったという評価がけっこう見られた。そうなのかと悲しい気持ちになった。
しかしこのアルバムを聴いた今となってはそういう評価には部分的にしか同意し得ない。コンディションが整っていたときの彼の歌はやはり本当に素晴らしいのだ。
このアルバムのラスト3曲は1994年に収録されたものだが、声の力強さ、伸び、張り、衰えなど微塵も感じさせない素晴らしいボーカルだったので全く驚かされた。ジェイムズ・カーは70年代で終わっていたという認識の人たちに是非この3曲を聴いてほしいと思う。
残念ながら1997年に彼は肺癌と診断されて肺の片方を切除され、その後も治療が続けられたのだが2001年が明けて間もなく亡くなってしまった。だから1997年以降の録音が劣ったものであってもそれはもう当然のことで致し方ない。しかし彼の声と歌唱が文字通り他に比べようもないほどのものであったのは間違いないことで、病に冒されることがなかったなら21世紀になってからの華々しい復活だって有り得たと思っている。

 
1. Pouring Water On A Drowning Man (Version 2)
 エルヴィス・コステロはアルバム Kojak Variety でこちらのバージョンをカバーしている。イントロのギターが全く同じ。
2. Love Attack (Version 2)
3. What The World Needs Now Is Love (Complete Version)
4. She's Better Than You (Version 2)
5. I Cant Help Myself (Sugar Pie, Honey Bunch) - James Carr & Barbara Perry
6. Woman Is A Man's Best Friend (Alt Mix With Extra Horns And Alternate B/Vox)
7. A Losing Game (Alt Vocal #2)
8. Row, Row Your Boat   シングル盤とは別テイク。
9. Hold On   1971年に唯一リリースされた名曲と言われるシングル。
10. I'll Put It To You  9.のB面収録曲。
11. Let Me Be Right (I Don't Want To Be Wrong)  1977年シングル。
12. Bring Her Back  11.のB面収録曲。
13. Hit And Run
14. A Womans Got The Power
15. Hungry For Your Love
16. Its Sweet On The Backstreet
17. The Dark End Of The Street (2000 Version)
 この曲はさすがに衰えを感じるが、2000年であればもう死の前年であって無理もない。
18. Gonna Marry My Mother In Law
19. Thats When The Blues Began
20. Try My Love
21. Jordan River
  21.~23.は彼が少年時代に属していたゴスペル・グループ The Jubilee Hummingbirds とのセッション。
22. He'll Be There
23. My Soul Is Satisfied
  ジェイムズ・カーの真骨頂と言うべき本当に素晴らしいボーカル。彼の曲を5曲選べと言われたら間違いなくこれを入れる。
 

POURING WATER ON A DRAWNING MAN (Version 2)/JAMES CARR

JAMES CARR - I'LL PUT IT ON YOU( ATLANTIC 45-2803 ) JOHN MANSHIP AUCTION



Guilty of Serving God 1995年 ACE
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Guilty of Serving God
これはジェイムズ・カーのアルバムではないが上げておく。
ゴスペルグループ The Jubilee Hummingbirds のアルバムにゲスト参加したもの。クイントン・クランチがプロデューサーを務めている。
多くのソウルシンガーがそうであるように、ジェイムズ・カーもゴスペルがそのルーツにある。解説によれば、彼はソウルシンガーとしてデビューした後もかつて所属していたゴスペルグループとずっと繋がりを保っていて、1994年、The Jubilee Hummingbirds が新しいアルバムを作る際にクイントン・クランチを紹介してほしいと頼まれのだという。その流れで彼も参加することになった。
これも良いアルバムなのだが、残念ながらカーが参加している曲は、アルバム My Soul Is Satisfied にも収録されている3曲のみでその他にはなかった。
 

HE'LL BE THERE aka YOU'GOT A FRIEND /THE JUBILEE HUMMINGBIRDS (vocal JAMES CARR)


MY SOUL IS SATISFIED /THE JUBILEE HUMMINGBIRDS (vocal JAMES CARR)


 
Take Me To The Limit 1991年 GOLDWAX
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クイントン・クランチが(おそらくジェイムズ・カーの再起のために)再び興したゴールドワックス・レコードから出されたアルバム。
60年代に比べたら劣るに違いないが、痛々しいと悲しいとかそんなことはない。失望するのを恐れて買ってから聴くのを長くためらっていたがこれはこれでそれほど悪くないと思う。
どうもジャケットは二通りあるみたいで、私が持っているのは彼の顔が大写しになっているもの。
 
 

『相楽総三とその同志』を読んでいて引いてしまった。

勤王倒幕で働いていたのに偽官軍の汚名を着せられて処刑されてしまった相楽総三たちの冤を雪ぐために長谷川伸が記したという史伝、『相楽総三とその同志』。
昔から気にはなっていたが、少し前にようやく買って読み出した。
引いたというのは以下の短い記述で、事実この通りとすれば全く没義道と言う他ないことを相楽はやらかしている。

相楽にとって残念に耐えないのは、新田満次郎が起たなかったこともだが、堀内敬内の計画が破れたことである。しかし、遺恨に耐え難いのは、渋谷和四郎、木村喜蔵、宮内左右平らである。殊に渋谷、木村は同志の怨みの的である。そこへ、上州からの報告で、邸外の同志金井文八郎らが渋谷の手で捕縛されたと知るや、いよいよ以て許すべからずと、報復の挙に出ることを決意した。それは江戸にいる渋谷らの家族を鏖殺することで、早速、主任者が選ばれた。
  (中略)
峰尾小一郎以外、十二月二十三日の夜、渋谷和四郎、木村喜蔵、その他、神田川岸にあった屋敷に斬りこんだときの連中が、だれだれか、知るべきものが今のところない。ただ、「殺傷容赦なし」とだけ、『薩邸事件略記』にもあるし、木村亀太郎の調査した資料にもある。さんざんに遣って、泊り客まで斬った。
 
(中公文庫上巻 p.184,185)

 

少し説明を加えると渋谷和四郎というのは関八州取締出役で、彼らによって相楽たちの栃木陣屋襲撃などの企ては砕かれて、多くの同志配下が討たれまた捕縛された。
その恨みを晴らさんとして、相楽は配下に命じて「渋谷らの家族を鏖殺」、皆殺しにしたというのだ。ひどい話だ。
 

結局、相楽たちは官軍を騙った偽官軍だと処刑されてしまった。
だが相楽たちが最期を迎えた地である信州下諏訪には彼らを祀った「魁塚」という古い石碑がきれいな形で残されているし、式典も今なお行われているらしい。
汚名を着せられ処刑されたにしても彼らには石碑があり手向けの花がある。
むしろ筋違いの怨みを向けられて皆殺しにされた渋谷和四郎たちの家族の方がよほど不憫だとしか思えなかった。
 
相楽総三は無辜であるか。
「鏖殺」が本当なら相楽は死に値する非道を為したと言うべきである。
 

相楽は無学な無頼の輩などではなく、裕福な郷士の家に生れて学問を好み若いうちから百人を越える門人を持ったような人物だったらしいが、これでは『るろ剣』の相楽左之助も「相楽」の苗字を叩きつけて返上するレベル。
 

 2020 12月追記
長谷川伸の書いたものは好みでそれでこの本も読もうと思ったのだけど、私は長谷川伸という人がちょっとわからなくなってしまった。
渋谷和四郎たちの家族には思いが向かないのか。
あと、この本を読んで感銘を受けたという人たちは相楽の「鏖殺」をどう思っているのか不思議に思う。
 

 
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