膨らまない話。

Tyurico's blog

「ぼうふらが人を刺すよな蚊になるまでは泥水飲み飲み浮き沈み」か。

 
勝新秘録 わが師、わがオヤジ勝新太郎』より

ヤクザ絡みでいえば、こんな話を聞いたことがある。オヤジのファンであられた哲学者の谷川徹三先生を、オヤジがお茶屋さんに招待した時のことだ。p.162

一方で、子供がそのまま大人になってしまったような人でもあった。
ある時、「勝新太郎を守る会」が結成された。そのメンバーがまた凄い。藤村志保春川ますみ江波杏子、大地喜和子、倍賞美津子などなど。
オヤジは彼女らに、面白おかしく渾名をつけた。藤村志保はPTAの会長とか、大地喜和子は娼婦とか、なかなか的を射ているように思えた。断っておくが、「娼婦」とは聞き捨てならないと思われるかもしれないが、オヤジ流で「妖艶な」という意味である。p.166

ただ、コカインはやる人ではなかったので、そこは意外といえば意外であった。
「ケミカルは駄目だよ。マリファナは天然由来だからいいけど」と言っていたことがあった。p.184

惜しくも裕次郎が亡くなって、青山葬儀所で行われた葬儀では、オヤジが弔辞を読んだ。その詞からも、裕次郎への愛がよくわかるだろう。以下全文を引用する。
 
「初めて会ったときから、もう三十年。
最初は勝ちゃん……裕ちゃん。その次に『勝』、『裕次郎』。最後は、兄弟!そういう仲になって……。
 きょう、この弔辞を読めといわれたときに、いいのかなあ、俺なんかが弔辞、読んでいいのかなあ……
 きのう……『さよなら裕次郎』という本と、それから、お兄さんの石原慎太郎氏の書いた 文章と、読んでるうちに、とうとう朝になっちゃって……。
 十一時まで間があるんで、高校野球、見てて。 高校野球、見てても 何か……なんかしゃべること見つけなくちゃいけない、見つけなくちゃいけないと思って、どうしてもその言葉が出てこない、そうしたら、兄弟! なんだよ、お前、好きに言えよ、好きなこと言やあいいんだよ、来て。
 そういう声が聞こえたんで……ここへ来たら、ほんとに、生きてる時も思いやりがあったけども、死んで肉体がなくなってても、この魂が……この写真の顔が、たいへん楽にさしてくれて……。
 悲しい葬式じゃなくて、なにか楽しい、と言っちゃいけないんだけども、ああ……なにか非常に、最高な葬式にめぐりあったような気がする。
 ずいぶん前だったけど一遍、酒飲んで喧嘩したことがあった。
『表へ出ろ!』っていうから、『ああ、いいよ、上等だ!』って……。
 たしか渋谷の……『屯喜朋亭』かなんかだったと思うんだけど、出て、便所んとこ行って……そしたら、『おい、芝居にしようよ』って言った時の、あの、やさしい目。
 その時のもう、とても普通の俳優じゃできない、すばらしい演技力というか、出来心というか。
 もちろん、すばらしいっていうことはわかってたんだけども、役者としては俺のほうが勝ってんじゃないかななんて思いながら、このあいだ『陽のあたる坂道』とか、いろんなのを見てるうちに、とても追っつかないなと、これは。これは、俺たちみたいな、変な演技するとか、そんなもう……そういうもんじゃ、とても、これはかなわないと、石原裕次郎っていうのは、もう、凄いんだと、つくづく思った。
 生きていながら死んでる奴が多い世の中で、死んで、また生き返っちゃったという、この凄さ。これは、とっても凄い……頭が下がる。そんな凄い人から、兄弟って言われた、俺も幸せ。
 ほんとに、どうもありがとう。
 いろいろ教わった。
 どうせまた、どっかで会うんだろうけども、そん時は……。ああ、そうか、陽光院天真寛裕大居士、ちょっと呼びにくいけども……。どっかで会うんだから、それまで……さよなら」