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Tyurico's blog

記事メモ 『セクシー田中さん』“改変”問題に漫画協会理事長「里中満智子氏」が緊急提言 「脅してくるような人にだまされないで」

1月29日、人気漫画『セクシー田中さん』の作者で、漫画家の芦原妃名子(本名・松本律子)さん(50)が死去していたことが報じられた。自宅に遺書が残されていたとされ、自殺とみられている。亡くなる数日前、芦原さんはSNSに同作のドラマ化をめぐるトラブルを投稿していたこともあり、突然の訃報は多くの漫画家たちにショックを与えた。芦原さんは、作品の映像化にあたり原作が“改変”されることに思い悩んでいたとみられるが、これを同業者はどう受け止めるのか。60年のキャリアを持ち、日本漫画家協会の理事長を務める里中満智子さん(76)に聞いた。
 
――今回の訃報を受け、どのような思いを抱いていますか?
 
私は芦原さんを直接存じ上げないのですが、ご本人のSNSのコメントから、どれだけ真剣に、自分自身を懸けて作品に向き合っていらっしゃったかが伝わってきて、悔しい気持ちでいっぱいです。
 同業者として何もできなかったという無力感は、私だけでなく、多くの漫画家が持っていると思います。どんな言葉も見つからないほどつらい出来事で、正直、この件に関する取材はできればお断りしたかったです。でも、今も芦原さんと同じような悩みを一人で抱えている若い人がいるかもしれない。そうであれば、年寄りは代わりに声をあげなきゃいけないと思いました。
 
――漫画作品を映像化する際に“改変”されることはよくあるのでしょうか?
 
 私は、ドラマやアニメなどの二次創作は、原作とはまた別の世界だと思っています。
 というのも、自分の少女時代を振り返ると、好きな漫画作品がアニメ化されたときに満足したことがなかったんです。原作ファンとしては、「このキャラクターはこんな声のはずがない」とか「原作のこの部分をもっと生かしてほしかった」など否定したくなるポイントが次々と出てきてしまって。
 たとえば手塚治虫先生の『鉄腕アトム』は、漫画だと、世の中の不条理に対する独特の絶望感が漂っています。私はその暗さが好きだったんですけど、アニメになると、小さな子ども向けにすっきりとした明るさにまとめられていました。アニメ版も手塚先生が手掛けていたんですけど、夕方にお茶の間で流れるテレビアニメだと、まったく違った表現になるんだなと思いました。
 
――ご自身の作品も、『アリエスの乙女たち』(1987)『鶴亀ワルツ』(1998~99)などドラマ化されていますが、“改変”をめぐるトラブルはありませんでしたか?
 
 出来上がったドラマは原作通りではなかったけれど、原作が持っているメッセージを伝えたいという気持ちが見えたので、楽しく拝見しました。
 私は、たとえ表現方法は変わっても、原作の芯の部分は伝えて頂けるだろうと、映像のスタッフさんを信頼したいタイプなんです。作品の世界をきっちり守る考えの漫画家さんからは「丸投げじゃないか」と言われるかもしれませんが、どっちがいいではなくて、作者によって違うし、同じ作者でも作品によって違うこともあります。みんなが納得できる理想形は、一つの作品ごとに関係者たちが模索して、築いていくものだと思います。
 だからこそ、映像のスタッフさんには、是非、ご自身が好きだと思う作品を二次創作して頂きたい。みなさん、お仕事だからいろいろなことを考えなきゃいけないのでしょうけど、「これだけ人気の漫画を実写化すればヒットするだろう」とか「原作のおいしいとこだけつまみ食いしよう」とか、そんなことだけを考えていらっしゃるとは思いたくないです。
 
――業界内で、映像化をめぐるトラブルは頻発しているのでしょうか?
 
 そういう話はよく聞きます。漫画は、漫画家自身が全コマに責任をもって描きたいものを描く、作家性が強い世界なんですよね。みなさん、作品に込めた信念や世界観をすごく大事になさっている。
 それゆえ、原作者が作品のコアだと思っている部分と、映像化するスタッフがここを見せたいと思う部分がすれ違った結果、「ドラマ化の話はなかったことにしてほしい」「原作者として自分の名前を出したくない」と嘆く同業者も一定数います。やはり契約を交わす前に、原作者は許諾の条件をしっかり主張して、どういう方向で作品化するのかをよく話し合って確認したほうがいいと思います。
 とはいえ、スタッフがいくら真摯な思いで取り組んでいても、原作者の希望に沿えない場合もあります。映像作品というのは非常に多くの人が関わるので、さまざまなファクターが加わってくるんですね。たとえば、芸能事務所の意向があるのでこのキャストの見せ場は削れないといった事態も起こり得るので、「原作者が提示した条件を守れない場合は誠意をもって解決策を探る」といった内容も契約書に盛り込むべきです。
 亡くなられた芦原さんは、ご本人のコメントを読む限り、そのあたりも十分注意して条件を提示されていたようですが、結果的に守られなかったのだとしたら、とても残念なことです。
 
――二次創作に関するトラブルに巻き込まれている漫画家に向けて、伝えたいことはありますか?
 
 悩んでいる人は、どうかどうか、「弱い立場だから声をあげられない」って勝手に思い込まないでほしいんですよ。作者より出版社のほうが力があって、その出版社よりテレビ局、テレビ局よりスポンサーが強くて……なんていう幻想に惑わされないでほしい。
 著作権法で、原作者の権利はきちんと保障されています。何もないところから何かを作り出す人は強いんですよ。だから若い方々も誇りを持って、「私の希望はこうです、できないんだったら映像化はお断りします」と、堂々と言って頂きたい。ときには、「ここで逆らったら二度と描けないよ」って脅かしてくる、とんでもない人もいるかもしれない。でも、どうかだまされないで頂きたい。
 映像作品の制作陣は大所帯ですが、漫画の原作者は基本的に一人です。それに、創作の世界に没頭して、一般常識とはまたちがった基準で生きているクリエイターの中には、誰かと密にコミュニケーションをとることや、何かを相談したり物申したりすることが苦手な方もたくさんいらっしゃる。だからこそ出版社の方には、ぜひとも一人ひとりの漫画家を守り、支えて頂きたいと思っています。

AERA dot.編集部・大谷百合絵)

 
参考としてもう一つ
www.star-law.jp