膨らまない話。

Tyurico's blog

読書メモ 『日本で力士になるということ』

 
意外なことに出版社は「ボビージャパン」だ。

 
高見山

 ところで、この「引退後に親方として協会に残るには日本国籍であることが必須」という条件は、外国出身力士である高見山さんが活躍し、親方として協会に残る可能性が出てきたことを受けて、相撲協会内で検討され、昭和51年に加わったルールだ。
 高見山さん本人は、それよりもずっと前、十両昇進時点で、日本での永住を決断。引退後も協会に残ることを希望していたそうだが、こうした規定の制定や、自身が帰化することに関して、どのように感じていたのだろうか。

「規定は、協会のルールですから仕方ないこと。それを踏まえて私も歩んできました。帰化に関して、家族からの反対とか、国を捨てるのかとはまったくなく、とにかく頑張ってよってことでした。何より私自身が、帰化して親方になりたい、弟子を育てたいという思いがあって、先を見つめていましたから」

 
横綱鶴竜

「本当に、いい部屋に恵まれました。よく、アットホームでいいってファンの人たちにも言われるんですが、みんないつも優しく教えてくれたし、ダメなことを叱ってくれたし、本当によかったです。だから、辞めた人たちとも、いまでもみんな連絡取っているんですよね。たまに会う機会もあるし、人数が少なかったから、千秋楽には辞めた人も来て部屋のことを手伝ってくれたし、すごくいい部屋でよかったですね。」

大関琴欧州

「言葉が通じなくても、体を鍛えることはいくらでもできるから、稽古もトレーニングも精一杯やったっすね。でも、人間って不思議でね、苦しいときのことって何も覚えていないんですよ。記憶の中に、関取に上がるまでの1年半は、何も思い出がない。たぶん、脳が忘れたいんでしょうね。人生のなかで、そこだけが抜けています」

「生まれたのはブルガリアだけれど、日本で成長したから、恩返しして、この世界をよくしたいなと思ったんです。よき伝統文化を残しつつも時代に沿っていかないと、この"200年"のブランクは埋まらずに、世界から置いていかれてしまいます。相撲界をもっとよくして、みんなに素晴らしいところを見てもらいたい。でも、辞めたらそれも変えられないから。微力かもしれないですけど、自分の力で、自分の部屋をもって、自分のところから少しずつ変えていきたい。成功したら周りが真似してくれる。そう思ったんです」

臥牙丸

「ヨーロッパの人は、大きい人が当たってるだけって思っているけど、数秒の戦いでこんなに美しいスポーツって、ほかにないと思います。一瞬のなかに、技がこんなにふくれているのはすごい。僕はそこまで相撲はうまくないですけど、本当に世界一のスポーツだと思います。たった1秒のなかに、心技体が本当に全部詰まっている。心技体を整えて、あの1秒に全てをぶつける。一瞬であんなに汗が出るのは、ほかのスポーツではないです。本当に素晴らしいと思います」

元桝東欧さん

勝ち越しをかける3勝(2敗)同士で当たりました。照ノ富士関はあの当時から大きくて、私も懐深いほうだったんですけど、がっつり捕まって押し込まれて、このままだと寄り切られる、やだなあ、負けたら3勝3敗になっちゃうって思いました。だから、(すぐに足をつかず)蛇の目(俵のすぐ外の砂のある部分)を越えて、土俵の下のほうに右足をついたんです。そこに、自分の体重と相手の体重がそのまま来て、右が畳まってぐちゃぐちゃってなって……。足首の骨、腓骨、ひざの靭帯が全部やられました。バキバキ!って音が、2階の観客席にまで響いたらしいです

「私が入門したときは、大相撲に興味がある方にネットで知られた程度で、ハンガリーメディアに取り上げられたことはありませんでした。そこまでメジャーじゃないんです。相撲を知っている人々のなかで、半分が、相撲は本当にスポーツなのか、ティーバック1枚で2人のデブが汗をかきながらおしくらまんじゅうしているってイメージになっています。なにせ、相撲に接する機会がないから。いまはテレビのダイジェスト自体も、打ち切りになってしまってやっていません。だからこそ、ぜひハンガリーの方々にも、相撲のことをもっと知ってもらいたいです」

「ほかには絶対見られない世界であること。もともと日本という国の厳しい縦社会のなかで、さらに一段上をいっていて、伝統を何千年も守り抜いてきました。それこそが魅力じゃないかなと思います。時代によって、ルールさえ変わるスポーツもある一方で、ずっと頑なに同じことをしているにもかかわらず、魅力的なのがすごいところ。それによる弊害もあるかもしれないけど、そんなことも全部ひっくるめて魅力なんじゃないかなと思います」

 
横綱照ノ富士

やっぱり人間、1人になると、悩み事とかマイナスのことを考えるんです。本当に心を許せる人がいれば、悩みを話したり、話さなくても一緒に楽しいことをしたりできるから、ホームシックになることもなければ、嫌なことを考える暇もないと思う。自分は常にいろんな人と関わって生きてきました。日本へはモンゴルから4人で来ているし、プロに入ってからは、元付け人の駿馬さん大督さん(呼び出し・照矢さん)と仲良くなりました。自分は人に恵まれているなって感じるんです。廻りの人が、心からの気持ちで支えてくれている。最初に言ったけど、結局は人間と人間の関係だから、悪い人とは付き合わなきゃいいだけで、国籍に関係なく、本当に信頼できる一生の仲間を見つけることが大事だと思いました。自分はストレートに、したいことをして、言いたいことを言って、正しいと思った道で生きているから、仲間は多いほうだと思いますよ。もうひとつは、ちゃんとした目標があるなら、それを常に考えること。

「モンゴル相撲は、何千年も前から続く祭のようなもので、モンゴルの男としての最高の形なのね。それは、これまでもこれからも守っていくべきモンゴルの一つの文化です。日本の相撲も同じ。着物を着て髷をつけている時点で、日本の力士として、昔からの伝統を守っている自覚をもって行動しないといけないと思っています。それは、力士になってからずっとね。皆さんに、大相撲を普通のスポーツとしてではなく、日本が誇る文化であり、国が守っていくべきものとして捉えてほしい。相撲は日本の象徴で、歌舞伎や能と同じものですから、そういう文化や歴史的な建造物などを守ってきているように、国は力士を守っていかないといけない。ほかの国との違いを守らないといけないというかね」