膨らまない話。

Tyurico's blog

ライブ! オーティス・クレイ 解説全文書き写し

 

杓子定規に考えればこういうのは著作権侵害かもだが、なにせかつてのアナログ盤の解説文をCDサイズに単純に縮小しただけのものだから字がとにかく小さくて、ルーペの助けを借りないと、いや正直ルーペでも読むのが辛い。(まあそれでも文字は潰れてないからちゃんと読めるんだけど。)
若いリスナーならともかく、たぶんこのCD持ってるほとんどの人は読めないと思う。それではもったいないと思って読むついでに書いて残すことにした。
故人の桜井ユタカさんに感謝を。許してもらえますよね。
誤字等あるかもしれません。不審に思われましたらご指摘ください。
 

 シカゴからやってきたソウル・シンガー、オーティス・クレイ
 たった5日間しか日本にいなかったのに、なんだかずい分長い間ずっと一緒にいたみたいなそんな親しみを覚えさせる。とても気持ちの良い男だった。
 もっとも、これは我々がレコードを通じて、実際10年以上も前から、オーティス・クレイの存在を身近に感じていたせいかもしれない。それに加えて、レコードで知っていた以上に、実物の彼が本物のソウル・シンガーだったということを知って、彼に対し一層親しみというか安心感みたいなものを抱いてしまったのである。
 そうした我々の気持ちを、またオーティス・クレイも実に気持ち良く受け入れてくれたようで、それを知ってファンである我々も胸が熱くなるのを覚えた。
 初日の彼のコンサートの、あの最後の方での熱ーい熱いシーンを覚えていますか?あれは、今ぼくが言った「気持ち」の表れだと思う。
あの時客席にいた多くのソウル・ファンは胸に熱い物を感じ、無意識の内に"オーティス!"と叫んだはず。かく申すぼくも、いい年して、人に見られないように気を使いながら、目頭をにじませてしまったひとり。
 これまで、多くのソウル・スターを日本で観てきたけれど、オーティス・クレイほど感動的だったシンガーは過去一人もいなかった。
 今考えてみると、そんな予感が最初からあったように思う。
 アーティストを羽田まで出迎えに行くなどということは、もう10年以上も前にザ・シュープリームスが初めて米軍のキャンプの慰問の為に来日した時に経験したことがあっただけでその後は一度もなかった。それが今回のオーティス・クレイには、きっと誰も出迎えに来ないだろうと思って、「SOUL ON」のスタッフと一緒に羽田まで出かけて行ってみたのである。
 ところがうれしいことに、オーティス・クレイが着く頃にはチラ・ホラと顔見知りのソウル・ファンが10数人ほど集まってきてくれた。
 ファンの前に現れたオーティス・クレイは、我々が大騒ぎしているのを見てびっくりしたらしく、にこにこ笑いながら、差し出した手に力強い握手を次々としてくれた。
 この後、宿舎のホテルに向かうオーティスの車に、幸運にも同乗出来たぼくは、車の中で初めて言葉を交わす。
 ほんの20~30分くらいだったけれど、会話の第一印象は、とにかく"真面目"な男であった。
 ホテルに着いたオーティス・クレイは、16時間も飛行機に乗りつづけてシカゴからやってきて疲れているのに、そんな様子を見せずに、部屋で着換えてすぐにティー・ルームに降りてきて我々と会ってくれたその親切さに実際びっくりしてしまった。
 このあたりは、本当にオーティス・クレイって、人がいいようだ。
 まあ、そんなことがあってオーティス・クレイとは、その後大阪コンサートの日を除けば毎日のようにステージが終わった後、みんなと一緒に食べたり飲んだりしたのである。
 こんなに個人的に親しく付き合える歌手、もう二度と日本には来ないだろうなあ。オーティス・クレイが最初で最後の人だと確信する。
 さて、日本のソウル・ファンをただただ感動させて、あっという間に帰ってしまった"本物"のソウル・シンガー、オーティス・クレイのライブ・レコーディングが、ようやくここで出来上がった。
 東京での2日間のステージを収録し、2枚組のアルバムでお届け出来ることになったのはファンのひとりとしてとてもうれしい。
 ステージで歌った曲はすべてここに収録されていて、唯一の例外はクロージング・ナンバーの内、初日の「イージー」だけがオミットされている点だ。1枚のアルバムにクロージング・テーマを2種類入れるわけにもいかないので、これはご了承いただきたい。
 16チャンネルで録音したライブ・レコーディング・テープから、レコードにするため2チャンネルにトラック・ダウンをする作業が5月の4日、6日の2日間に行われた。
 これにはぼくも少し立ち合ってじっくりオーティスのステージを聞かせてもらったのだが、どの曲を聞いても彼は全力投球をしており、ただ感心ばかりしていた。ミキサーやディレクターは一生懸命トラック・ダウン作業をしているのに、このぼくはそんな状態できっと仕事がしにくかっただろうと思う。
 16チャンネルの内、オーティスのボーカルだけのテープを時々聞かせてもらったけど、彼の音程のしっかりした歌いぶりは、とても動きながら歌う生ステージとは思えない、スタジオ録音顔負けの確かさであった。
 実際のところ、彼のこの1~2年のスタジオ録音の曲より確実にステージでの出来の方が完璧であった。この事実はソウル・ファンの多くに衝撃を与えた。
 初日のコンサートの後、ロビーで聞く評価の全てが"絶賛"ばかりであったのも、十分理解出来る。
 それに彼のコンサートに集まったファンは、オーティスがびっくりするくらいオーティス・クレイのことを知っていて、たいして有名じゃない曲でも、ファンはしっかりオーティスと歌ったりしていた。
 こんなファンばかりだったら、歌う方もきっと楽だと思う。
オーティス・クレイは、もう本気でそうした日本のソウル・ファンというよりも、自分の音楽を深く理解してくれているファンに、心からの感謝をしていた。ぼくは彼の口から何度もそのことを耳にしている。
 東京での2日目のコンサートのクロージング・ナンバーに「アイ・ダイ・ア・リトル・イーチ・デイ」という曲を「日本のソウル・ファン、今日この会場に来て下さった皆さんのために歌います」といって歌ってくれたオーティスの気持ち。ぼくは涙が出るくらいよくわかる。
 この曲、オーティス・クレイたちはアメリカのステージでも殆どやったことがないと言っていたが、初日のコンサートの後飲みに行ったりディスコに行ったときに、ぼくがふと彼に"実はB面の曲でとても気に入っているのがあるんだけど、ステージで歌ってくれないだろうか"と頼んだら、彼はOKと言って、2日目に約束を果たしてくれたのだから、うれしくてあの時は目の前まっ暗だったですよ、ぼくは。*1
 わざわざ2日目、リハーサルで一時間もかけてこの曲の練習をしたオーティス・クレイまじめさ、これは大変なものだと思う。*2
 ところで、この曲を日本のソウル・ファンがちゃんと知っていて、オーティスと一緒に歌っていたけれど、これには当のオーティス・クレイもびっくりしていた。2日目のステージの後楽屋へ行ったら、彼はかなり疲れた様子だったが、歌ってくれたお礼を言ったら、そんな様なことを言っていたのを覚えている。
 このライブ・レコーディング・アルバムは来日アーティストの単なるスーベニアーとして作られたものではなく、コンサートのあのムードを経験した者だけの思い出のレコードでも、もちろんない。
 来日アーティストの実況録音盤というのは過去にいくつもあるけどその全てが単に"ムード"を第一のポイントに置いて制作されているけど、このオーティス・クレイのは少しばかり違うのである。
 オーティス・クレイのコンサートに出かけられなかった多くの地方のソウル・ファンの方にも、本当の姿のソウル・シンガーとしてのオーティス・クレイを理解し、楽しんでもらうために作られたことを、ぼくはここで敢えて強調しておきたいのである。
 そんじょそこらにあるライブ・レコーディング・アルバムとは、ちょっとばかり中身が違うという点を、是非とも、ソウル・ファンには理解してもらいたいのである。
 ライブ・レコーディングの多くは、まずムードが重視されて歌手の出来不出来には、ファンの方も、レコードを作る側も、あまり神経質ではないのが一般的傾向だが、このオーティス・クレイの場合は少しばかり違うのである。
 もちろん全体のショウの流れ、ムードは大切にしているが、ソウル・シンガー、オーティス・クレイの真の姿をまず優先して楽しんでいただきたいのである。
 そのために、ボーカルとボーカルとバックのバランスに少し手を加え、一般的なライブ・レコーディングよりはボーカルを前面に出している。こうすることによって、オーティス・クレイの魅力はさらにはっきり聞くことが出来るわけである。
 ソウル・ファンの中にはライブ・レコーディングをあまり評価しない傾向があるが、このオーティス・クレイのアルバムは、そうした連中に、確実にライブ・レコーディングを再認識させるはずである。
 特に、このアルバムのA面、B面で聴ける迫力いっぱいのリズム・ナンバー「アイブ・ゴット・トゥ......」「アイム・クォリファイド」がまずソウル・ファンをダウンさせてしまう。次にスロー・ミディアムの作品、「イフ・アイ・クッド・リーチ・アウト」と、「プレシャス・プレシャス」が胸を強く打つ。そしてC面のソウル・バラード「イズ・イット・オーバー」D面のクロージング・ナンバー「アイ・ダイ・ア・リトル・イーチ・デイ」と続き、段々と目頭が熱くなるという具合だ。
 なお、A面のトップに入っているのは「アイ・ダイ・ア・リトル・イーチ・デイ」のリハーサルの様子で、これはいままでのライブレコーディングにはなかった新しい試みで、ソウル・ファンにはきっとよろこんでいただけるはず。
 オーティス・クレイのステージは、我々ソウル・ファンにとっては、今年の最大の収穫になりそうである。
 このライブ・レコーディングを、改めて聞いてみて、そう強く痛感している。

〔解説:桜井ユタカ /YUTAKA SAKURAI 〈`78 5.20〉〕

 
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こういう物はやはり素性の知れない安い物より名の知れたメーカーの物を買った方が失敗がなくて良いだろうと思う。
エッシェンバッハのも2.5倍。
 

*1:「目の前まっ暗」は原文通り。

*2:まじめさ」の強調は本当は下線でなく上に点々なんだが「はてな」では表記できないので。